溌溂

第一話 東京都ガザ地区 裏通りの特殊中華料理

 

俺は今ものすごく空腹だ

営業先の倉庫を見たが、治安が悪く自警団やシンジゲートがウロウロしている。

真夏でもスーツを着ているのは中華コピーのグロックトカレフを腰に携えているからなんだろう。左足に重心を据えて、変わらない歩幅で歩く…軍隊経験者か…。とんだ無駄足だった。

そう考えるとますます腹が減る。

 

参ったな、なんて場所に来てしまったんだ。

焦るな、俺はただ腹が減っているだけなんだ。

肚が減って死にそうなんだ。

 

なんでもいい、どこか、何処かに飯屋はないのか

中華か、ええい、入ってしまえ。

 

イラッシャイマセ、アオムケニなりますカ?

 

それはいい。胎が減っているんだ。メニューを頼むよ。

 

アイ。オススメは満漢全席になってマス。

 

ふむふむ、豹の胎児、駱駝のコブ、猩の唇、犀の陰茎、龍の肝…これは蛇の肝かな、八珍かぁ、皇帝じゃないしなぁ…うん?奇妙な肉か…こういうのって男の子だよな。

 

すみません、奇妙な肉と熊の掌、あっ、それと果子狸の骨髄の定食を一つ。

…こういう店の八珍ってのは密輸なんだろうな。

 

オマチドウサマ。

 

うわぁ、なんだかすごい事になっちゃったぞ!

果子狸の骨髄:いわゆる骨、啜って食べよう。

紅焼熊掌:熊の掌の醤油煮込み。気分はゴールデンカムイ

奇妙な肉:言わずもがな。falloutでお馴染み。国際人道法違反。

 

まずは虎の睾丸酒で高めて。

ズゾゾ…うん、骨髄はやはり濃密だ。

掌、ベアークローを使える気になってしまう。コーホー…なんちゃって。

奇妙な肉か、うん。独特な臭みで濃厚な中華の中ですっごく爽やかな存在だ。

 

うっぷ、いい感じにまがってきた。

ごちそうさま。

 

店の店主と客がまだ此方を見ている。

俺はこの2021年の東京都内とは思えない荒廃した貧民街には不釣り合いな客だったのだろう…拘置所も近いしな…

 

ふぅ。ハイライトのタールを肺に感じながら俺は少しの罪悪感に苛まれた。母の胸に抱かれたような、父の大きな背中を見ているような。その全てに背を向けて中央軍集団に突撃命令を出した大本営。俺は得体の知れない奇妙な高揚感に包まれていた。そして帰りのバスで静かに脱糞をしたんだ。

 

吾郎〜、五郎〜、悟朗〜 人柱! FU〜♪

護郎〜、呉楼〜、伍郎〜 人柱! FU〜♪

 

次回は昼下がり、港区女子を食べる人柱五郎、そこに人権と大義はあるのでしょうか。また来週もお楽しみに。