うまい棒値上げから見る日本経済の衰退と崩壊

その日、鶴坂藩の藩政会議は揺れに揺れていた。

鶴坂藩は山陽に位置する小藩だ。

30,000石の扱いを受けているが度重なる饑饉で12,000石ほどの実石であった。

 

中老の梅津泯武をはじめ藩一丸となって倹約を画策しているが、藩主度京太夫の放蕩三昧により傾いた財政は既に厳しい段階にまで来ていた。

 

度京太夫の放蕩は止まるところを知らず、江戸から呼び寄せた演劇一座や異人の為に城内に御殿を建てたりとやりたい放題であった。

 

「昨今の情勢不安による増大する防衛費は実に我が藩のGDPの30%に及ぶ、そして毎年の不作、如何にして財政を建て直すか…各々方何か案は」梅津が重い口を開いた。

これを皮切りに会議は侃侃諤諤。

 

筆頭家老の土肥原は領内への徹底的な締め付け策を

中老の梅津は開墾開田策をそれぞれ提案していた。

 

各派に分かれての舌戦が繰り広げられある程度が経った。

 

「そもそもお上の江戸屋敷での豪遊が此度の圧迫の主たる原因。参勤交代の際もファーストクラスではなくエコノミーにするなど、お上自ら正していただかねば民はついてきませぬ。また御家老の使途不明金の流れも上がっておりまするぞ。」組頭の寺内壽一郎が声を上げたところ水を打ったように静まり返った。

 

「ん…古い事を…取り急ぎ今を乗り切らねばならん。」

「…。」

度京太夫、筆頭家老の土肥原は眉ひとつ動かさなかった。

「では次回の会までに方針を固める事とする。以上。」梅津の声が響く。

 

「おお…地震か…、この所よく続くわい。」

 

 

連日の会議は深夜に及び、既に五ツ半を過ぎている。

今日の資料をまとめ、帰り支度をした寺内は部下の兼見と帰路につこうとしていた。

「この藩の金の流れがどうも腑に落ちんのだ。」

「今に勘定方の尾上殿の調べが上がってきます。それ次第でしょう。」

「そうだな、すっかり遅くなった。急ごう。」

「兼見?」

 

突如提灯の火が消え、暗闇と化す。

寺内は城下一の筒井道場で師範代を務め、那智心流の免許皆伝の腕前だ。

寺内は素早く刀を構えた。

渾身の居合いを気配に向け放った。

 

浅い

 

 

ビチュ!

「Это приказ из дворца.」

 

 

 

寺内甚之丞は壽一郎の嫡男、普請組に勤めている。登城の支度をしていると普請組組頭の荒木が駆け込んできた。

「急ぎ同行願いたい。」

 

城内は騒然とした有様だ。

「寺内殿程のお方が…どのようにして…」

大目付けの角野が調べを進めていた。

兼見は強烈な当て身で気を失っていたので生きてはいたが、下手人の顔はわからなかった。

不審な紙切れが一枚落ちていた。

根本はるみのグラビアであった。

中老の梅津がその紙を見て眼を細める。

「上意か…」

 

通夜も終わりあらかた事が済み幾日か経った。甚之丞はその夜梅津に呼び出されていた。

 

「まあ、楽にしてくれ。」

盛大な葬儀が安国寺で催され甚之丞はほとほと疲れていた。

「この度の父御の不慮誠にお気の毒でござった。跡目の事は問題なく行くだろう。」

「ありがとうございます。」

「よい。父御の事だが、大目付の角野を呼び出し死因の調べの些細を聞いたが、調べを即刻中止せよと土肥原から言われたそうだ。」

「なんと!」

「おぬし、父御は政策のあわぬ土肥原に誅殺されたと思っておるだろう。」

甚之丞はどきりとした。梅津の指摘通り土肥原を疑っていたからだ。

「お前、色々嗅ぎ回っているな。これは忠告だ。今すぐ手を引け。」

 

「…」

 

「これはお前の手に負える話ではないのだ。藩の暗部にちょっかいだして、生きて帰った者はおらん。わしも含めだ。さ、わかったら帰るが良い。」

 

帰りの道中甚之丞はまんじりともできずにいた。藩の暗部とは?放蕩を尽くした故の散財だろう。

どうにも落ち着かない。道場で汗をかいて頭を冷静にしよう。

 

道場に行くと師範の筒井重政が静かに瞑想をしていた。

 

「先生、夜分にすみません。少し道場をお借りしてよろしいでしょうか。」

 

「構わんが…お前に話がある。」

「父御の事だ。あれはそう簡単にやられる男ではない。亡骸には刀傷もなく、これといった外傷もなかったそうだ。おかしいとは思わんか?」

筒井の元門下には大勢の城勤がいる。

そこから流れた情報だ。

 

たしかに父は綺麗な亡骸であった。死という現実に動転しそこまで考えが及んでいなかったのだ。

 

「最近異人達が多く増えている。旅芸者達も全く表に出ない。周りを大国に囲まれたこの藩は軍拡にも限界がある。何かを企んでいるのだ。お主、藩主直属の特殊部隊『SCS』の存在を知っているか?」

 

「噂には聞いたことがあります。要人警護から暗殺など闇から闇へ解決し、1人が一個中隊に匹敵する強さだとか。存在すら怪しいですが。」

 

「左様。そしてその『SCS』は実在するのだ。父御はそれにやられのだ。」

 

「何故?!放蕩三昧を追求した腹いせでしょうか…」

 

「甚之丞、戦をするには最低でも3ヶ月の準備がいる。この小国の鶴坂が今の乱世の逐鹿の渦に巻き込まれては半月ともたないだろう。この国には今軍事革新が進んでいる。仏蘭西のシャスポー銃、英国のエンフィールド、紀州藩に至ってはプロイセンのドライゼ銃に普式軍政改革で徴兵制までしいているそうだ。

お上の放蕩三昧?違う。これは全て軍拡の費用だ。その深部に迫った為お父上は暗殺されたのだ。」

 

「明日、土肥原の後を追え。おそらくそこに全ての答えがある。」

 

「私に何故それを…」

 

「真実を知りたいのだろう。時代の流れだな。腰の刀も無用になる日が来る。まあ、意地の様なものだ。」

 

翌日の早朝、甚之丞は土肥原を尾けていた。

随分と山奥へ進む。

峠を越え下り、また峠を。

人形峠…?何故こんな寂しい山に筆頭家老が?

!?

土肥原に少し遅れ輿が到着した。

藩主の度京太夫だ。

見慣れない護衛、あれがSCSかもしれない。

 

古い鉱山跡に異様な緊張感が漂っている。

甚之丞は意を決して侵入した。

 

 

なんだこれは…

 

シューッ!ガオンガオンガオン

巨大なプラント、見たこともないカラクリが轟音を上げ軋み動いている。

「ここまで来てしまったか。」

!?

梅津が背後に居た。

全く気配を感じなかったのだ。

「計画は最終段階だ。もういいだろう…お上の所に行くぞ。」

 

「おお梅津か。む?其奴は件の…寺内の…」

「嗅ぎ回っていた様で。もう止められない段階まで来ていると思い連れてきました。」

「そうだな。記念すべき日だ。折角だ、コイツにも役目を与えよう。我々の勝利の日を祝うためにな。」

 

坑道を進むと大きく開けた場所に出た。

まるで大広間だ。

その中心に異形のオブジェのような、楕円形の金属製の球体が鎮座していた。

 

「これは一体なんなのですか?」

 

「この人形峠にはな、古来より不思議な言い伝えがあるんだ。その昔峠には大きな蜘蛛がいて旅人を襲って食べていた。それを人形を囮にし蜘蛛を退治したという伝説だ。これは伝説でもなんでもない実話なんだ。」

 

「話が全く見えませぬ。そんな世迷い言になんの関係が?!」

 

「みろ。わしのガイガーカウンターを。メーターが反応しているだろう。」ガリガリッ!ガリガリッ!

 

人形峠にはな、放射性物質が眠っているのだ。鈾と言ってな。これを遠心分離し濃縮するんだ。そうすると想像を絶する破壊力を持った爆弾の材料になる。江戸ですら一息で消し飛ばせる。それを我々は実現したのだ。大蜘蛛の伝説は放射能でミューテーションを起こした蜘蛛の成れの果てだ。」

 

「わしの放蕩三昧はな、見せかけじゃ。異人の演劇一座、それは建前だ。あれもただの劇団ではない。異国から著名な核物理学者を呼び寄せたのだ。この鈾爆弾完成の為にな。」

 

「で、では昨今の頻発する地震は…」

 

「この爆弾の実験だ。鉱山地下故に小規模ではあるがな。」

 

度京太夫が口をひらいた。

「我が藩はお世辞にも大国とはいえぬ。三流国家が手っ取り早く一流国になり、大国を相手にするには圧倒的な兵器が必要なのだ。今討幕の機運が高まっている。この戦にいかに貢献できるかで戦後のイニシアチブを握れるかの瀬戸際なのだ。この大型爆弾は本来空中投下が望ましい、しかしダヴィンチ・ヘリコプターでも蘭式熱気球でもペイロードが足りん。残るは大型艦船に搭載し輸送、闇夜に紛れ江戸屋敷内に持ち込みそこで、爆破する。これが江戸fallout作戦だ。3000度の熱線で全ては灰燼に帰す。どうだ、甚之丞。お前がやってくれんか。」

 

「…わかりました。その大役、務めて見せましょ…ウッ!」

去ネ…去ネ…

「そうか!やってくれるか!」

「…ちなみにこれはどのように…起動するのですか?…」

 

「そうかそうか、早速気になっておるのか。そこのセーフティーを解除して、本体横のスイッチを二つ同時に押すんだ。実に簡単だろう。」

 

去ネ…去ネ…

 

「…なるほど…このように…やるのですね…」

 

「流石、筋がいいな。そう、そのボタンを

 

アッ」

 

 

 

 

この核爆発を引き金に南海トラフを刺激、安政の大地震は発生した。

 

我は死神なり、世界の破壊者なり